医療改革(2)・・・崩壊したアメリカ医療 |
新谷さんが右眼の手術を受けて数年立ちました。その間に医療の状況は随分と変化してきました。
まずは国が運営している社会保険ですが、3割負担は変わらないのですがカバーできる医療の範囲が年々狭まってきて、ちょっとした病気で病院にかかっても自費=民間保険を併用しないといけない状況になってしまいました。風邪をひいてもちょっとした薬は社会保険ででますが、レントゲンを撮ったり点滴を受けるのは自費です。しょうがないので民間保険を使うのですが、社会保険と違い、使用すればするほど掛け金が年々高額になり・かつ使用できる治療にも制限が付いて来るのです。他の民間保険に切り替えようとしても、一度眼の手術を受けているので保険に入るのを拒否されます。民間保険は利潤を追求するので(=商売でやっている)ので、同じ保険でも、今まで我々が使用していた国が運営する保険と性格・性質が全く異なるのです。
一番大変なのは高齢者で、病気が多くても国の保険ではある程度の治療までしか受けられません。民間保険に入ろうとしても当然拒否されます。自費で治療を受けるしかない状況では、本人・家族の金銭的負担が著しく増大します。
株式会社が運営する病院も多数できましたが、民間保険を使用する場合、保険会社の方から使用する薬や検査に厳しく制限が来ているため(保険会社の意向に沿わないと、その病院ではそこの民間保険が使えなくなってしまう)、かなりの部分を自費で行う機会が増えますが、そこの部分は病院の言い値です。レントゲン一枚とるのに数万円を請求されたりします。薬の値段も皆保険の頃と比べ大分高くなりました。
新谷さんも、社会保険と以前使った民間保険一社の2つしか保険を持っていません。民間保険の方は掛け金が高くなり、次に他の病気で保険を使うようになるとかなり保険料が上がり制限も加わると保険会社から警告されており、ブルーな毎日を送っています。子供が熱を出し、救急を受けたところ、レントゲンやなんやらで自費の部分で5万円請求され、泣く泣く支払いました。 新聞では、高齢者の内民間保険に入っていない人の割合が80%を越え、20歳以上65歳未満でも20%になり、受けられる医療の質が貧富の差によって決定されると悲観されています。”こんなことは混合診療、株式会社による病院経営を導入する時から判っていたのに。結局アメリカと同じことをやって大失敗しているじゃないか・・”新谷さんはつぶやきましたが、国はもう制度を以前のように戻すことはありません。
<解説>
以上の話は多少オーバーな表現・数値もありますが(笑)、制度的には今現在国が導入しようとしている混合診療のモチーフになっているアメリカの保険制度で実際に起こっている事です。アメリカの医療制度は、医者の立場からみれば大学での研究環境や研究費の確保・医療レベルの高さ等で魅力的ですが、患者の立場からみれば最悪です。民間保険に入らないと、抗生物質も出してくれないこともあるようです。その民間保険に入るのにも厳しい制限があり、国の保険は高齢者と貧困層のみに適応されるだけで、しかも日本の保険からみれば全然カバーする範囲が狭いのです。更に株式会社の参入で病院が利潤追求のみを求める為様々な弊害が生じて来ています。
民間保険に医療が支配されたアメリカで実際に起こっていることは、
患者にとっては
①提供される医療の質が平均して落ちる
②患者負担が増加し、保険に入れない人が増加する
③結果、死亡率が上昇する
医療現場にとっては
①市場原理の導入で病院がコストダウンに走り、スタッフが減る(看護士の著明な減少)
②病院の株式会社化による不正請求の増加、集客競争による倒産の増加
③利潤追求の為、検査や薬の値段の設定の高騰
すべてのアメリカの医療制度が悪いというわけではありませんが、よりによってアメリカの医療制度の一番悪い部分である”市場原理””マネジド・ケア”を導入しようとしているわけです。何を考えているのでしょう?
ここからは、小泉さんに医療のへの市場原理導入を強く進めている、政府の総合規制改革会議の宮内義彦会長(オリックス会長)のコメントです。
2001年に医師会が ”「集客競争が起きて医療の質を下げる」「医師が資本力のある企業などに支配される」”などと株式会社導入の問題点を指摘した所
”「企業などが新規導入すれば効率が上がり、患者の選択の幅も広がるという基本的な理解がない。企業に対する誤認は、企業人として許しがたい」”
だそうです・・・。こちらから言わしてもらえば、”医療の根幹を理解しているとは全く思えない”ですね、噴飯物です。基本的な理解云々よりもそれがもたらす結果が一番重要でしょう?”企業人”ってなんですか?お金を貸したり物を売ったりするのと人の命を預かってお金を頂くのとを同列にして戴かないで欲しい。
一番大切な事は、利潤を追求すれば、医療現場では良心的な医療の追求は不可能になります。 アメリカのようになってしまえば、結果としてこれは憲法25条の生存権にも抵触する事態となります。だって、患者が病院にかかれなくなり、医療費が高騰し、死亡率が増加する制度ですよ?オリックスの会長は責任取れるんでしょうね?
アメリカのボストン大学の公衆衛生にジョーン・アナスという高名な教授がいらっしゃいますが、その方は、市場原理・マネジド・ケアを導入して崩壊したアメリカの医療制度を踏まえつつ、”医療のグローバルスタンダードは市場原理ではなく、透明性と説明責任。”と言い切られています。至極まっとうな意見です。また教授は、日本の皆保険制度を高く評価されており、アメリカの制度の導入に非常な危機感を持つと警告されています。
”改革”という言葉に乗せられて今回の選挙は終わりましたが、この結果は裏を返せば、”郵貯資産を外資に供給(=外資に食い尽くされる)しても良い、と国民は判断を下した”と政府は捉えています。事実海外に資金が流失すれば大変な事になりますがその事は何も言いません。政府が気持ちよい言葉を吐く時には必ず裏が有ります。医療改革の本質は今まで述べたように医療への市場原理の導入で、それは医療が崩壊することを意味します。これは絶対に許すわけにはいけません。自民党を壊されるのは結構ですが、世界に冠たる国民皆保険制度は壊さないで頂きたい。